Interviewインタビュー

第1弾『狂武蔵』について

Vol.2
TAK∴ (監督&主演)

Vol.1Vol.2Vol.3Vol.4

過酷な撮影秘話!カメラを止めるな!

──
あの現場に斬られ役は何人ぐらい居たのでしょうか。
TAK∴:
100人強ぐらいだったかな。その中で俺をガチで狙って攻めてくるのは30人。上段の構えから普通に攻めてくるっていうのが大体50人ぐらい。あとはバックグラウンドとカメラの後ろからタイミングみて攻めてくる感じだったかな。
──
実際に77分間で何人斬ったことになるのでしょう。最初、数えてやろうと思ってカウントしてみましたが5分とかからず諦めました。
TAK∴:
588人ですね。自分だけが分かるんですよ、見てカウントしてたんで。
──
撮影開始5分で指の骨が折れたそうですね。どういった状況だったのですか?
TAK∴:
全員、硬い樫の木刀に銀を塗ってやったんですけど、良い刀は3本しか作れなかったんですね。最初は安っぽいのを使って、後半の方で良い刀に換えた方が良いなとは思ってて。そうしたら、安っぽいからガチできたやつを滑らせると鍔(つば)がすぐ割れちゃうんですよ。それで滑った刀が指に当たったのか、受け間違えたかだよね。
──
TAK∴さんの中で指が折れた瞬間に気づかなかったということですか?
TAK∴:
指の骨は全然分からなかったですね。やり始めた時の方が緊張してたから。アドレナリンが出っちゃって、やり始める前から「お前らマジで来いよ、目も突いてこい、ど頭もカチ割ってくれよ、喉も突いてきてもいいし何やってもいいけど本当に手ぇ抜いた刀がきたらお前らマジでぶっ殺してやるからな」っていう感じで言って周りに圧かけてたじゃないですか。そうしてヨーイスタートって言ったらみんなめっちゃガチで来たんですよ、そうしたら指折れたっていう(笑)。俺もこんな、すげぇ力で全員振ってきたからそれを受けるのにもうパンパンになっちゃって。で、5分でバテちゃって体力がいきなり0になったんですよ。それで、気がついたら「あれ? 指動かなくなってる」みたいな。
──
どの指が折れてしまったのですか?
TAK∴:
右手の人差し指ですよ。まだ折れてるんですけどね。
──
え!?
TAK∴:
ウソです。
──
(笑)。それにしても、ずっと刀を握り続けるわけですよね。ときどき刀を交換する場面はありましたが握力はあんなにもつものなんですか?
TAK∴:
もたなかったですよ、後半は。最初は力で握るんですけど、後半はもう手に力がなくなるから、本当に刀を握るというよりは触れてる感じになるんですよ。それで持てるようになっちゃうんですよね。
──
その状態で受けや攻撃ができるものなんですね。
TAK∴:
いや、もう後半は「当たるわけないな」って。後半はもう“ゾーン”に入っちゃってるんで。だってもう役者じゃない表情になってるじゃないですか。目の瞳孔があれだけガッて開くなんて中々ないですよ。だから逆に、完全にゾーンに入ってからはもう余裕でしたね。
──
余裕? 緊張が解けてということですか?
TAK∴:
そう。後半40分になった時は、もっとやれるなって感じですよね。ナイター設備あるんだったら一昼夜やってもいいなっていう。全然、朝までやろうよみたいな。
──
けれど、指以外にも途中で肋骨を折ったそうですよね。その時も気づかなかったということですか?
TAK∴:
いや、肋骨がいったのは「パキッ」て音がしたんで分かりましたね。2回ぐらい折れてるんですよ、パキッパキッって聞こえたんで。
──
それでも撮影は止めなかったんですよね。
TAK∴:
そう、何があっても“カメラを止めるな!”ってね。
──
実際に骨も折れて、それでも敢えて撮影を止めなかった理由というのは……。普通の俳優ならパキッと折れた時点で「ストップ」をかけそうな気がするのですが。
TAK∴:
骨が折れたり腕が1本折れたりするだろうなっていうのは最初から思ってたんですよ。だからそれはそれでオイシイなって考えてましたね。左腕でも右腕でも折れていいやって覚悟でいました。頭も何発か当たるだろうから血も流れて血糊もいらないだろうなとか。
──
劇中の血は本物だったということですか?
TAK∴:
本物もあったと思いますよ。血糊も一応つけてたけど、やっぱり切り傷もあったんじゃないかな。
──
後半はTAK∴さんの表現でいう“ゾーン”に入って、このままやってしまえという感覚になったということで「止めた方がいい」と思った瞬間はなかったと。
TAK∴:
絶対止めてほしくなかったですね。柄澤は止めようとしてたみたいですけど、俺が伝えていた「カメラを止めるな!」っていうのを守ってくれたんですよね。何があっても止めてほしくなかったんで。失明しても止めてほしくなかったし、なんだったら目が潰れてもいいように目隠しして攻める練習もしてましたから。
──
気になったのは、劇中で「来いよ」みたいに手でクイクイッと招く動作を見せていましたよね。あれは最初から決まっていたものだったのですか?
TAK∴:
あれはアドリブですね。絡んでくる人間が怖くなる時があるらしくて。俺が当てるところはちゃんと決まっていて、そこにパッドも入ってるんだけどリアルにやってるから怖くなって間ができちゃうんですよ。けど俺はもっと欲しいから、来いよ来いよって手招きやっちゃう。「もっと来いよ、俺は欲してるんだから」って。
──
それは役の上で「来いよ」というものだったのか、TAK∴さん本人の「来いよ」という意識だったのか覚えていますか?
TAK∴:
どっちもだったと思いますよ。
──
手招きと同じように刀をぐるぐると回す動作もありましたが、それもアドリブで?
TAK∴:
アドリブですね。身体が脱力状態になり、無になっていました。最初は絡み一人一人を意識して攻撃をしていたのが、後半は自然と視野が広がり、感覚だけで身体が動いていた。
何も考えていない。逆に考えられない状態。だけど身体が勝手に動く。本能的な部分だけで戦ってた感じですね。本当に今まで味わった事のないゾーンに入り込んでいました。

稲川義貴氏との出会い

──
撮影では剣術というか型は、どれぐらいのパターンが決まっていたのでしょう。それとも型は決めず、攻められたらそれを受けて斬り返していくというような流れだったのですか?
TAK∴:
『狂武蔵』の撮影の前に稲川(義貴)先生(注:『RE:BORN』戦術・戦技アドバイザー&アビスウォーカー役)に初めて出会ったんですね。それで稲川先生から“螺旋”など3つぐらい剣術を習いました。「合戦に出たら結構使えますから」って言われてやってたんです。ただ俺は刀の基本自体は誰にも習ってなくて、刀を教えてくれたのはむしろただただ相手とやりあって覚えたって感じでしたね。
──
稲川先生とは『狂武蔵』がなくても会う予定だったのですか?
TAK∴:
いや、最初の“10分ノーカット”の段階でもっと剣術のアドバイスが欲しくていろんな剣術家の人に見せたんだけど、「身体能力は凄いけどもっと腰を落とした方がいい」とかそういうありきたりなことしかみんな言ってこなくて。これは参考にならないなって思ったんですよ、だって6人7人同時に斬り込んでくるのに腰を落とすコンマ何秒がもったいないとか、そんなありきたりな腰を落として斬るなんて、アクションやってたらバカでも分かるセリフですから。なんか納得いかないなって思ってたら、『剣狂 KENKICHI』に関わっていた剣術関係の人が「会ってくれるかどうかは分からないけど、1人本物の人がいるから会ってみませんか?」って言われて、それで稲川先生に会ったんですよ。でも先生に俺のやり方を見せたら「うん、それでいいですよ」って感じで。「人を殺せればそれでいいんですよ」って言われましたね。
──
確かにそうですよね。戦場や戦闘場面になったらそんな型がどうとか言うよりも、本能で動きますよね、きっと。
TAK∴:
だから生で俺が練習しているのを見てもらったら、先生もすげぇテンションが上がって。「じゃあ俺も見せますよ」って先生も見せてくれて、ほかの練習生がみんなぶっ倒されたっていうね(笑)。

引退の理由・・・

TAK∴:
撮影のあとに俺は俳優を引退することになるんですけど、“中途半端な自分”っていうのが俺の中で分からなかったんだと思うんですよね。『VERSUS-ヴァーサス-』でデビューしてから主演映画も結構ありましたけど、結局ジャンル俳優でメジャーじゃない。どっちかっていったらちょっとマニアックな俳優で主演させてもらってるのは嬉しいことなんだけど、でも全然売れてるわけじゃない。かといって仕事がないわけじゃないし、このままふわっとした感じで生きていくのかなって。
俳優だけの仕事をしてたわけじゃなくアクション監督の仕事もずっとしてたんですけど、俳優っていうのは何を削って何をやっても人に評価されないといけない職業じゃないですか。自分をどれだけ追い込もうが人の評価でしか生きれないのは当たり前のことなんですけど、伝わらないといけないところで微妙に伝えきれてないからメジャーになれないんだなって俺は思ってて。だとするならば、この時代に役者として相応しくないんだから辞めるべきなのかなっていうふうに思いましたよね。だったらこれを最後にストーリーも全く無視して、お客さんのことも1mmも考えず、どうせ最後なら命懸けて暴れるのもいいのかなっていうモチベーションがあって。お客さんに媚びたってどうせ売れはしないんだから、だったら媚びずに命懸けて「ハイ、終わり。みなさんありがとうございました!」っていう気持ちだったかな。
──
では『狂武蔵』で引退しようというのは撮影前から考えられていたということですか?
TAK∴:
いや、流された感じですね。最後の「カット!」ってなって、監督だからみんなにお礼を言いたかったんだけど、みんなが集まってきて「大丈夫ですか」ってなるのも嫌だったから「ちょっとゴメン、少しだけでいいから1人にさせてくれ」ってセットの梁のあるところで横になった。それで顔にタオル掛けたら本当に涙がぽろぽろこぼれてきて、もう初めてですよ、嗚咽して泣く感じで。恥ずかしいから声出さないようにするんだけど涙は止まらなくて。けどそれって、達成感や満足感は微塵もないし、辛かったことに対する涙でもない。ただ体が泣いてるっていう。その涙が抑えきれなくて。それで、その時ですね。「もう辞めよっかな」って。
終わったあとは、刀を持ったら吐き気がして、初めてボロッボロになって精神状態も不安定で、それでも東京で仕事しようと思ったのは、今までどんなことがあったって人に相談したりとかはしなかったんですけど、初めてお袋に相談したからなんですよね。お袋に電話することなんて「帰るよ」っていう時だけだから、2、3年に1回ぐらいしかしないんですよ。それが、お袋に電話しちゃって「どうしたの」って聞くから、「いや、もう辛いから辞めようかなって思ってるんだよ」って伝えたら、「あ、そうなの」って。すっきりした感じで「よく頑張ったんだから、帰ってきなさいよ」って言われて。そんな言い方で、なんか「あれ、なんかまだやれるな」って思っちゃって。
──
逆に「やれるな」と思ったのですか?
TAK∴:
うん。お袋があまりにもすっきり言ってきた瞬間に、なんか気が楽になっちゃって。もうちょっとここで頑張ろうかなって思ったんですよ。
──
優しい声をかけられたら「休んでいいんだ」となりそうですが、そうではなく「まだいける」、と。ちなみにお母さまへの電話は、『狂武蔵』の撮影が終わってどれぐらいで掛けたのですか?
TAK∴:
1カ月ぐらいだったかな。実際その電話から2週間ぐらいは休みに行きましたから。いつもと変わらず優しく迎えてくれましたね。俺はぼうっとしてただけですけど。うちの親父とお袋と、ずっとポーカーやってお金巻き上げてたっていうね。お金っていっても「ハイ100円ね」ぐらいですけどね(笑)。でもずっとそんなことして、ぼうっとしてるかトランプゲームしてるかで、なんか…… そうね、優しい言葉ってあるんだね。その言葉が俺にとって凄く優しかったし、いきなり精神的な不安定さがなだらかになったっていうか、肩の荷を下ろしてくれた感じなんですよ。
──
お母さまの言葉はTAK∴さんにとって意外だったんですか? 何か言われるんじゃないかと予想されていたのでしょうか。
TAK∴:
ううん、なんか言われるんだろうなとか、そんなこと考える余裕もなかったから。ただお袋の声が聞きたくなって電話したんだと思いますね。

(ライター:葦見川和哉)