Interviewインタビュー

第1弾『狂武蔵』について

Vol.3
TAK∴ (監督&主演)下村勇二 (共同監督)

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旧友たち

──
TAK∴さんは一度俳優を引退されましたが、その後もアクション監督として『TOKYO TRIBE』や『HiGH&LOW RED RAIN』などに参加されています。“俳優は引退したけれどアクション監督は続ける”ことになったわけですが、俳優とアクション監督の差とは何だったのでしょう?
TAK∴:
もともとアクション監督はずっとやっていたんで仕事がなくなることがなかったというのが1つと、逆に言うと俳優としては世間に求められてなくて辞めたわけじゃないですか。求められているものがあれば、応えればいい。
──
『剣狂 KENKICHI』もそうですが、園子温監督と組まれることが多いですよね。園監督とはどのタイミングで出会われたのでしょう。
TAK∴:
園さんが『愛のむきだし』の脚本を書いてる時に出会って、アクション詰め込んでやりましょうよ、アクション監督自分がやりますからって言ったんですよ。実は一番最初はお互い印象悪くて喧嘩みたいな出会いだったんですけど、パーティーかなんかですげぇ偉そうなこと言われて「誰だてめぇこの野郎」みたいになって。もちろん園さんのことは知ってたんだけどちゃんと作品は観たことなかったんで、園さんと同じ事務所に入った時に全部の作品ちゃんと観て、真っ向から悪口言ってやろうと思って全部観たんですね。そうしたらめちゃくちゃ面白くて。めちゃくちゃ才能ある人だと思って、それで園さんとたまたま会った時に園さんも「前は悪かったね」みたいな感じで、「いや俺の方こそ」ってなっていきなり仲良くなったんですね。そこからずっとお互い近所に住んで、ずっとつるんでましたね。
──
その頃にはTAK∴さんもアクション監督して、いろいろな作品に携われていたんですね。ちなみに俳優になるかアクション監督になるか、どちらが先にあったのですか?
TAK∴:
同じぐらいじゃないですか?それこそ『VERSUS-ヴァーサス-』の前から勇ちゃんとは自主映画やってたので、自分も監督したりしてましたから。
昔は勇ちゃんも出てましたね、自主映画で監督主演したり。
下村:
そう。出る側。自分が主演で最後に拓ちゃんが敵役、みたいな。
──
その作品は世に出てないのでしょうか。
下村:
出てないし、出せない(笑)。
TAK∴:
そんなの恥ずかしくて出せないですよ(笑)。勇ちゃんはね、ジャッキー・チェンみたいな芝居とアクションするんですよ。
下村:
ジャッキー大好きだからね。
TAK∴:
常にジャッキーみたいな香港映画芝居するんで、「なにやってんだコイツ」ってずっと本気で思ってたんですよ。けど当時は勇ちゃんの方がアクションは全然上手かったんで。だから俺にとって最初のライバルは勇ちゃんだったし、撮り方も編集の仕方も見てて勇ちゃんの方が全然上だった。なんて言うんだろ、最初は勇ちゃんの頭ひとつ超えてバカにしたいっていう想いがあって、本気でやり始めたのがスタートなんですよ。だからアクション監督も俳優も同時期なんですよね。
──
下村監督とTAK∴さんは20年前から交流があるということですが、最初は何がきっかけだったか覚えてますか?
下村:
やっぱり自主映画?
TAK∴:
うん、自主映画。
──
アクションスクールが一緒だったということでもなく。
TAK∴:
勇ちゃんが倉田アクションクラブで俺がJAC(ジャパンアクションクラブ。現JAE)だから。
下村:
僕が大阪の倉田アクションクラブを辞めて、フリーのスタントマンをやるため上京してきて。それで、まだプロとして仕事が無いから、バイトで知り合った人たちを自主映画に誘って撮ったりしてたんですね。拓ちゃんはちょうどJAC養成所を卒業した頃だっけ?
TAK∴:
いや、俺は途中で辞めてるんだよね。
下村:
それで僕が一緒に自主映画を撮ってた人物が、たまたま拓ちゃんとJACの同期で、自主映画の映像を拓ちゃんにも見せていて。そしたら「面白いから会ってやるよ」と。これはっきり覚えてますけど、ちょうど僕は自宅で編集をしてたんですね。その時に共通の知り合いが初めて彼を自宅に連れてきて、顔合わせた時に「君、編集良いね。俺、監督するからカメラと編集やってよ!」て、いきなり言われて。「なんだコイツ?!」って思いましたよね(笑)。それが初めての出逢いです。結局、後で知ったんですけど、同い年だと思っていたら僕より年下だった。それなのにずっとタメ口だったんですよ。拓ちゃんが『VERSUS-ヴァーサス-』でデビューした時にプロフィール見て、「あれ? 年下だったっけ? サバ読んでんじゃないよ」って言ったら、実際は年下だった。
TAK∴:
その話好きだねぇ。
下村:
いやこれね、ホント衝撃だったから!
TAK∴:
だから今はね。1コ年上なんでちゃんと敬語使ってますよ。
下村:
使ってねぇって(笑)。
TAK∴:
当時は1コ違うだけで敬語使わなきゃいけないとか、先輩後輩みたいなのが邪魔くさかったんですよ。だから同級生!同級生! ってウソついてた。ずっと。
下村:
まぁそれも彼らしいですが(苦笑)。
──
『VERSUS-ヴァーサス-』や下村監督作品の『デス・トランス』、『狂武蔵』とTAK∴さんは剣術アクションが目立ちますね。たまたまなのか、それともアクションの中でもこだわりがあるのですか?
TAK∴:
刀の基本はアクションやる時習うんですけど、堅苦しいのはイヤだったんで。刀は自由に振りたいと思ってたんですよ。唯一自分の中で好きなように覚えたのが刀で、人から学ばず好きなようにやってきたのが刀だったんです。それで刀にしようっていう。

戦劇者・TAK∴について

──
いまTAK∴さんは俳優ではなく“戦劇者”と名乗られていますが、その表現に込めた思いというのはどういったものなのでしょうか。
TAK∴:
それはもう俳優としては引退して、もう死んだと思っているんで。坂口拓は「狂武蔵」を最期に・・・あの時に死んだんだと。だから俳優として復帰したとは今も思ってなくて、基本は俳優の仕事は断ってますから。ただ俳優辞めてからの方が仕事のオファーが来るようになっちゃって(笑)。だから逆に言うと、俳優さんができないようなこと? 命を張るようなさ。正直、俳優が「命張ります」なんてウソだから。本当には命なんて張れないから。俳優はウソをリアルにするのが仕事じゃないですか。けど俺はリアルをリアルにやることが出来るから、そういう仕事が来るんだったらやりますっていう意味で“戦劇者”っていう、戦う者を演じてあげるっていうさ。あげるって言うのもおこがましいけど、本当に戦ってほしいんだったらやりますよってこと。自分しかやれないんだから、俺がやらせてもらいますっていう。
──
TAK∴さんの今後のビジョンとして、普通の俳優としては……。
TAK∴:
やらないですね。
──
では、一度引退されて再び表舞台に立たれましたがTAK∴さんの中では“俳優復帰”とは捉えていないと?
TAK∴:
ないです。死んだままですね。復帰したらもうあれですよ、朝ドラとかに出てますよ(笑)。
下村:
そっちなんだ(笑)。
TAK∴:
「おーい、お茶持ってきてくれるかい?」みたいなね。
下村:
一切戦わないね。
TAK∴:
戦わない。そうしたらもう“俳優復帰”ですよ。
下村:
そんなの誰も観たくないけどね(笑)。
TAK∴:
「おーい、女将さん。ラーメン3つ」
──
それも良いんじゃないですか?(笑) TAK∴さんの意外性という意味でも。
TAK∴:
まぁずっと戦ってきた人間にしか出せない味は出るかもね。そういう時もあるかもしれないですよ。そうしたら「坂口拓」って名前が出てますよ。

復帰・・・

──
話を戻しまして。再び表舞台に立ったのが下村監督の『RE:BORN』でした。 “あの坂口拓がスクリーン戻ってきた”という観客の反響、手応えを感じましたか?
TAK∴:
手応えなんてないですよ。そんな盛り上がってる気はしないですね。そりゃ『カメラを止めるな!』みたいに社会現象になれば実感すると思うよ。 あれは一般の人も巻き込んでるじゃないですか。けど俺の場合はコアなファンだけが盛り上がってる。もちろんそれも嬉しくて有難いんだけど、結局は変わっていない。俺からすれば昔やってた時と変わらない。ただ自分が変わったことだけは分かりますよね、もう全く別の体になっちゃってるんで。
──
ですが、『RE:BORN』は公開当初は新宿武蔵野館のレイトショー上映だけだったのが全国に広がって、立川シネマシティの極音上映も3日間満席にしていますよね。それだけでも大きな反響だと思うのですが、手応えはないと。
TAK∴:
ないです。自分が強くなったなってことだけ。皆さんが喜んでくれて嬉しい気持ちはありますけど。『RE:BORN』の場合は新規のお客さんじゃなくて、何回も観てくれてるリピーターが多かったじゃないですか。
下村:
劇場行ったら「あ、また来てくれてる」「またお会いしましたね」みたいな。顔見知りになったお客さんも多かったです。
TAK∴:
そう。だから何十回と観てくれたヘビーユーザーに支えられてた作品だから、「毎度ありがとうございます」みたいな感じのことの方が多かった気がしますね。
──
『RE:BORN』で扱われたゼロ・レンジ・コンバットやウェイブの知名度を広げたという意味では、TAK∴さんがアクション監督を務めた『HiGH&LOW THE RED RAIN』以上だったと思うのですが……。
TAK∴:
そうですね、そういうふうになってたなら嬉しいですけどね。それを稲川先生が良しとしているかどうかは分からない。俺はゼロ・レンジ・コンバットの宣伝部ですから、役割を果たせていたら嬉しいですよ。稲川先生に少しでも恩返しができるっていうのは嬉しいことです。
──
ちなみに『HiGH&LOW THE RED RAIN』でゼロ・レンジ・コンバットを押し出そうというのは最初から決まっていたことなのですか?
TAK∴:
監督の山口雄大が、「『RED RAIN』の戦う相手ってギャングとかなのに、本当に今までのハイローシリーズと同じように殴ったり蹴ったりするの?」って。「大人と子どもが戦うのにそんなバカな話ないでしょ?」となって、じゃあリアルな技を使えるなと。雨宮兄弟の過去がまだ謎に包まれているから、だったらゼロ・レンジ・コンバットにしないかと思って。それで山口雄大に「1回『LDH』に行ってHIROさんにプレゼンしてよ」って言われて。HIROさんの前でフルスピードで銃のディザームとかがっつり見せたら「すごいね、こんなん見せられてやらないでくれなんて言うわけないじゃん」と言ってもらえて。
──
確かに、『RED RAIN』のアクションは『HiGH&LOW』シリーズの中でも異色だなと。公開時に稲川先生からはリアクションはありましたか? 言うなれば自身が考案した戦闘術が初めて映画で使われたことになりましたが。
下村:
稲川先生からアイデアをもらっていたシーンもありました。それに劇中で斎藤工君がつけてるネックレスも稲川先生が作ったものだし。
TAK∴:
稲川先生は観てるのかな。『RED RAIN』終わってから『RE:BORN』だっけ? 違うよね。
下村:
撮ったのは『RE:BORN』が先。ただ『RE:BORN』は公開がまだ決まってなくて、その前に山口雄大監督が「『RED RAIN』でウェイブを使うんだけど、『RE:BORN』の公開前に世に出しちゃっていい?」と、わざわざ連絡をくれたんですね。でも拓ちゃんが動いてる訳じゃないから、拓ちゃん以外の人がやっても本物のウェイブもゼロ・レンジ・コンバットも伝わらないだろうし、全然問題ないですよって伝えました。1度現場に見学に行ったんですが、雄大監督が「ウェイブ使うシーンがあるんだけど本当にいいかな。出していい?」と心配されたんですけど、雨宮兄弟と拓ちゃんではやっぱり動きが違うから問題ない。本物のウエイブを初披露するのは「RE:BORN」だけです、と。

(ライター:葦見川和哉)