Interviewインタビュー

第2弾『狂武蔵』を支えた男たち

Vol.2
長野泰隆(撮影監督)カラサワイサオ(アクション監督)

見えない戦い

──
撮影が決まって慌ただしい現場になったとは思うのですが、カラサワさんはどのようにアクションを設計されていったのでしょう。侍作品ということで通常のアクションとは違いますよね。
カラサワ:
もともとのファイティングスタイルは拓ちゃんが作ってて、もう『狂武蔵』として出来ているものだったんですよね。ただ武蔵に絡んでいく人たちはバラバラで統括できてないし、ビビッて行けなかったり、拓ちゃんも急に鋭くなっちゃったりする。だからどっちかっていうと拓ちゃんとカメラの後ろにいる俺が戦っている感じですよね。全員に俺から指示を出してるから、カメラには映ってないけど俺と拓ちゃんが戦ってるっていう。だから絡みの人もなんとなくフリーで行くけど、どこからどういうふうに行けっていうのは俺が全部指示を出して、拓ちゃんのダメージが増えてきたらちょっと手加減したりとかしましたね。逆にこれは行かせないと本気出さないなって時には強めのえげつない攻撃のフォーメーションを叩きこんだり、要は拓ちゃんと俺の戦いみたいなのがあの70分の中にあったんですよ。
──
ではリハーサルをしながら決めていったのではなく、リアルタイムでアクションが動いていったということですか。
カラサワ:
そう。本当に戦っているんだけど、カメラが回っている以上適当にやっていると画にならないからそこは長野さんの真横にいて、長野さんと同じ角度で見る感じですよね。見栄えがいいっていうわけじゃないけど、映りやすいようにだとか、あとはいろいろ映っちゃいけないものがバレないようにっていう意味も含めてね。
──
そうなると、アクション設計にかけた日数というのは“0日”ということになるのでしょうか?
カラサワ:
そうですね、ただ拓ちゃん自身は1年ぐらいずっとあの戦い方を練習してたんじゃないかな。
長野:
そうでしたね。スタイル自体はもう出来ていて、それを単純に世界観にはめ込んでいるだけ。それを僕らも撮るつもりでずっと準備してたので、だから内容が変わっても撮るものは一緒というか、目的自体は一緒だったんです。
──
長野さんはどのようにカメラの動線を決められたのですか?
長野:
さっきお話したように、前日に3人で歩いた時に線だけ決めた形ですね。だから全く手はゼロの状態で、あくまで線を決めただけ。ここでズームだとか、そういったものは本番でっていう。
──
動線以外に、撮影中の細かい演出は本番前に決められていたのでしょうか。それとも、長野さんのフィーリングでズームや引きにしたりという形でしたか?
長野:
ワンカット1発撮りだったからズームレンズとかは使わず、通常のレンズ1本だけでやってるんですよね。基本的にはスタンスを変えるというか、拓さんとの距離感だけをどうするかっていうだけなんですけど、逆に決めておきたくなかったんですよ。動線とかいっぱい決め事はあったんですけど、とにかく拓さんのこと以外は全部忘れたくて、撮影直前はそんな感じでしたね。拓さんのことだけを感じる状態に自分を持っていくっていうのに集中していた記憶があります。むしろ段取りにならないようにしたっていう。といってもあの現場で段取りみたいなことにはならないですよね、絶対に。拓さんとシンクロしないといけないから、ただそれだけだったんですよ。
──
撮影で拓さんだけを感じていたいと。その気持ちは最後まで変わらなかったのでしょうか。ここは自分の持ち味を出そうとか、そういった感情は……。
長野:
そういう客観的な思いだとかはやってる間は全くなくて。もう撮影に入っちゃうと自分自身っていうのは全く感じないというか、あるにはあったのかもしれないけど無意識の状態で撮っているんで。あんまり技術とか技法とか経験とかで撮るべきじゃないなっていうのがその時の一番の判断だったんですよね。そういう形ではあの時の坂口拓っていう人間を撮りたくなかったんです。ありのままを撮るというか。
──
カラサワさんはリアルタイムのアクションをずっとつけていたわけですが、撮影中に心境の変化というものはありませんでしたか?
カラサワ:
俺の場合拓ちゃんのファイティングスタイルを成立させなきゃっていうのが半分と、それと同じぐらいもう半分はワンカットで成功させなきゃっていうのがあって。それが結局崩れちゃうと全部パァになっちゃうから、あんまり感情っていうのはなかったんですよ。とにかく成功させなきゃっていうので、自分のテンションだけでできるものでもないし。お昼に、11時ぐらいだったかな、カメラ回して軽くテストやったんですよ。そうしたら全く成立しなくて。全然成功しなかったんですよ。スタートしてから最後のところまでカメラ回して、軽く疲れない程度にやったんだけど、もう全く成立しなかった。
長野:
そうでしたね。全然上手くいかないっていう……。
──
それは人の動き的な部分ということですか?
カラサワ:
動きというか、見切れちゃったりカメラにバレちゃったりとか。あと人が来なかったりとかアタックするところで行けなかったりとか結局全部ダメで、どうしようっていう。
──
ですが、それが撮影当日のお昼だったんですよね。
カラサワ:
そう。当日のお昼。それで、俺がダメだったところを全部チェックして手に書いて、そこを本番中に何とかしようって潰していく感じで。ここをオーケーにするためにはこうした方がいいっていうのを全部。それが偶然、できちゃったんですよ。本番で。ここは見切れる可能性があるから注意しとかなきゃいけないとか、事前に連絡飛ばしてスタンバイしておくとか。ガッチリとは決まった動きじゃないから、途中3分とか5分とか前後があるんです。だから絡みに行くタイミングっていうのも「何分に行きます」っていうものじゃなかった。それがたぶん、逆になんか上手くいっちゃったねっていう感じでしたね。だからNGになりそうな項目が腕に全部マジックで書いてあったんだけど、俺も出なきゃいけない可能性があったの。
──
そうだったんですか? 本編にということですよね。
カラサワ:
実は俺もちゃんと衣装を着てたの。だから『狂武蔵』の現場で衣装を着てて画面に出てないの俺だけなんですよ。
──
では結果的に本編に映ることはなかったと。
カラサワ:
そう。途中で何かトラブルが起きたり、もうこれ以上進行が出来ないってなった時には俺がボスとして拓ちゃんを斬りに行くっていうね。それで俺が何とか尻拭いする役だったんですよ、演出しながら。
──
なるほど。結果的に77分の作品になりましたが、例えば40分ぐらいで何かが起きてカラサワさんが出てラスボスになっていたら、それでエンディングを迎える作品になっていたかもしれないということですね。
カラサワ:
俺が出たら基本的には失敗だねっていう話だったんですよ、構想的にはね。俺が出ていくようだったら、要は目的地に辿り着けてないようなことに近いじゃない。だから結局、普通はダメになっちゃった時ってたぶん収拾つかなくなるでしょ、ああいう現場って。でも拓ちゃんと俺だったら何とかできるから、俺も指示は出してるけどスタンバイした状態で。俺が出ていくようだったら最初にやってた段取りがいけなかったってことになるから、俺は出たくなかったんですよ。俺が出てきた時点でこの作品は上手くいってないなっていうことだから。でも万が一のためにスタンバイして。だから俺が出なくて済んでラストにカメラクレーンが上がっていった時に、「あ、俺出なかった」って。出ないままいけたなって。
──
言うなればカラサワさんが保険だったわけですね。
カラサワ:
そうだね、俺が保険。
──
それはどの段階で決めたことだったんですか?
カラサワ:
もちろん撮影より前のことなんだけど、基本的な流れみたいなのを俺が全部作って、こうなったらダメだよねとかこうすると危ないよねっていうのを潰す作業があって。それから武器のスタンバイとかほかの段取りもしたんだけど、そのとき一緒に保険の話をした気がするんですよね。保険という意味では、助監督の人たちが昼に本番を撮ろうって言ってたんだよね。

(ライター:葦見川和哉)