Interviewインタビュー

第2弾『狂武蔵』を支えた男たち

Vol.5
長野泰隆(撮影監督)カラサワイサオ(アクション監督)

戦いの後・・・

──
そういった過酷な状況を経て、撮影が終わった時の感情というのはどういったものだったのでしょう。
カラサワ:
テストの時に全然ダメでこれは成立しないって思ってたけど、さっき言ったように俺ができる限りNGを書き出して潰していったやつが、それが逆にできちゃった。クオリティっていうよりは、デカいミスとかこれはダメだっていうミスもなかったから「できちゃったね」っていう感じだったんだよね。やっぱり狙ってできるものじゃないから。
──
撮影が終わって、拓さんが「1人になりたい」とセットの隅に移動されましたよね。カラサワさんは長野さんとともに拓さんと最も近い位置に立たれていたわけですが、拓さんの姿を見てどう感じられましたか?
カラサワ:
なんかね…… たぶん拓ちゃんや長野さんは体力的にもそうなんだけど、俺も作品を作る上で重要なところを任されてたし、撮影が終わって3人とも結構真っ白になった感じがあって。だから普通の撮影みたいに、終わってワーみたいな感じにはなれなかったんだよね。拓ちゃんが1人にしてくれって言ったけど、もうみんなそんな感じだった。だから俺もワーみたいにやりたくもなかったし、だんだんクールダウンさせていかないといけないところもあるし。すごい、極限状態でみんなやってたから。ほかのスタッフは盛り上がってたけど、3人とも真っ白になってましたよね。
──
長野さんは撮影を終えられていかがでしたか?
長野:
僕も一緒というか…… 無力感みたいな。達成感はなかったですね。終わってる感じがしないっていう。
──
拓さんが、長野さんも撮影後は精神的にボロボロだったと。実際に影響は出ていたのですか?
長野:
撮影が終わって、それから1カ月ぐらいは仕事をしてないですね。できないというのか、いろいろ整理できないことがあって……。分かんないんですけどね、どういうことなのか。僕はずっと77分間とか時間は意識してないんですけど、それだけの時間1人の人間のことだけを考えて入っていくっていうことは稀なので。撮影っていう仕事はそういうものなんですけど、でもあの状況で1人の人間とシンクロし続けるっていうのはいままでなかったから。なんか、置いてっちゃった、みたいな。拓さんの中に自分が連れてかれちゃったみたいな感じで、なんか何にもやる気がなくなっちゃって…… というのは実際ありました。
──
カラサワさんにとって、撮影の前後で坂口拓という1人の人間に対する印象が変わる部分はありましたか?
カラサワ:
長野さんがどうだったかまでは分からないんだけど、拓ちゃんと俺は『狂武蔵』でやりきっちゃった感が出ちゃったんだよね。今までずっと映画とか撮ってたりした中で、クオリティ云々は置いておいてもなんかこれ以上のことって、たぶんもう死ぬまでできないんじゃないかなってちょっと思っちゃって。自分の中の、なんかよく分んない大切な部分がね、拓ちゃんも俺もすぽーんって抜けちゃったんだよね。普通にアクションの仕事やってても、なんか、こう…… 分かります?
長野:
分かります。
──
そもそもカラサワさんは拓さんとどれぐらいの付き合いがあるのでしょう。
カラサワ:
初めて会って、ちょうど15年ぐらいになるのかな? 北村龍平監督の『荒神』の時からだったと思うんだよね。
──
長野さんは、拓さんの印象はいかがでした?
長野:
印象は変わってないはずなんですけど…… 簡単に会えなくなっちゃったっていうのはありますね、自分の中で。連絡は結構マメに取ってたりしたんですけど、直接お会いするっていうのが簡単にはできなくなったんですよ。ほんとに理由は分かんないんですけど。なんか会いづらいっていうか…… うーん……。だからそういう意味では、やりきったっていうのは確かにあって。
──
拓さんも同じことを話されてました。長野さんとは会いづらいと。全てをさらけ出して、裸を見られたような気がして簡単には会えない、というような。
長野:
僕もそうなのかもしれない。なんかカッコいい言い方みたいになっちゃうんですけど、一心同体というか、一緒に共存していた時間というか同じ人間みたいになってた瞬間があったんで。生半可に会って普通に話が出来なくなっちゃったんですよね。なんか形でお会いしたくないな、みたいなのがあって。でもまぁ、心配はするのでメールとかはやり取りがあったんですけどね。
カラサワ:
なんかね、その後ちょっと自主映画みたいなので結構カメラ回してアクションシーンとかも撮って。ずっとカメラを回してる時間があったんだけど、その時にほんのちょっとだけ、1mmぐらいだけ長野さんの気持ちが分かって。被写体とリンクしちゃうんだよね、カメラやってると。それで長野さんに1回連絡しましたよね、「なんか、ちょっと分かりました」って。
長野:
ありましたね。
カラサワ:
このことか、と思って。ウチらはそんなに長い間主役とリンクしてる仕事じゃないから。アクション監督って主役見たり周り見たり、いろんな人を見ないといけないわけで。主役だけずっと見てカメラやってると、ここまで魂持ってかれちゃうんだなっていう。同じ反応で動いちゃう時があるんですよ、動いてる人と同じ感覚で同調しちゃうというか。
長野:
特にアクションなんて動きを見てカメラ向けないと絶対撮れないので。絶対に一緒の呼吸で動かないと無理だから。
カラサワ:
特に長野さんはアクション撮るのが上手くて。普通のカメラマンって動いてるところを追っかけてくけど、長野さんはご自身も極真流空手の有段者だから、アクションの動きで先が読めるんですよ。だから普通のカメラマンと違って、フォローが早いんですよね。パンチ出た、キック出た、っていって追っかけてくんじゃなくて、出るだろうって感じで結構カメラを持っていく時があって。
長野:
それはね、役者の重心が動くんですよ。それで次はこれしかないなっていうのはパパッと分かるというか。
カラサワ:
その予測を唯一出来るのが長野さんだと思ってるんで(笑)。
長野:
唯一かどうかは分かんないけど(笑)。
カラサワ:
いや、ほんと長野さんみたいにはできないからね。普通は遅れるじゃない。遅れないんですよ長野さんは。ご自身も戦えるから。だから主役の重心移動でカメラが自然に動くから、それが俺は好きで。
──
すごく分かります。話が逸れてしまうんですけど、僕もアクション映画が大好きで長野さんが撮影を担当された『HiGH&LOW END OF SKY』も『HiGH&LOW FINAL MISSION』も観ていまして。カメラワークが本当に素晴らしくて、セットの関係で動きも制限されたはずなのにアクションがとても見やすかったんです。目で追う必要がないというか、スッと目に飛び込んでくるような……。これもお聞きしたかったのですが、『狂武蔵』の前後でご自身のカメラワークや技術的な面で何か変わった部分というのはありましたか?
長野:
うーん、技術的なところは分からないんですけどね。ただ、拓さんの『狂武蔵』は別次元だったので。『HiGH&LOW』はアクション監督の大内(貴仁)さんのやり方っていうのにも影響されてると思うんですけど、『狂武蔵』は全く違う次元なので比べられないんですよ。結果的には変わったのかもしれません。拓さんとカラさんと一緒にやったことで、アクションって一言でいうのはほんと失礼かもしれないんですけど、その…… 撮りたくなくなっちゃったっていうか(笑)。
──
アクションを撮りたくなくなったということでしょうか。
長野:
簡単にはってことですよ? 簡単にアクションだからこうでしょ、みたいな感じにはならなくなっちゃって。結局、人じゃないですか。スタントマンも人だし役者も人だし、そこに映ってるのはみんな人間なんで、アクションも芝居というか人間を撮るってことと全く同じ、同義だっていうのはその時以降もうはっきりと自分の中に感じましたね。そういう意味では逆に、ほかの作品でアクションを撮ったりスタントを撮ったりする時に迷いはなくなったかもしれないですね。

(ライター:葦見川和哉)