Interviewインタビュー

第2弾『狂武蔵』を支えた男たち

Vol.6
長野泰隆(撮影監督)カラサワイサオ(アクション監督)

『狂武蔵』の呪縛

──
ちなみに長野さんは撮影後に『狂武蔵』はご覧になりましたか?
長野:
観てないんですよ。何でですかね(笑)。観たくないっていうのが本当の気持ちなんですけど、思い出したくないというのもあるんです。僕の中でひとつのピースでしかなくて、それはひとつの映画のワンシーンでしかなくて、あくまで僕の中ではまだ完成できてないもので。まだ整理が出来てないってことなんでしょうけど、観ていないというか、観れないというか……。
──
では、いま改めて観たいという気持ちも沸かないと……。
長野:
いや、観たいっていう気持ちはあるんですよ。あれば観たいなという思いはあるんです。観たらあの時の瞬間も戻ってくるんで。でもちょっと気持ち悪くなっちゃうというか。
──
拓さんと同じですね。拓さんも気分が悪くなるからもう観たくないと話されていました。それで、これからも『狂武蔵』の編集にはタッチしたくないと。完成した作品は観るけれど、いまはまだ観たくない、思い出したくないそうなんです。
長野:
カラさんが言っていたように僕らも映画として撮ってなくて。本当はプロとして映画を作らなきゃいけないので良くないことなんですけど、でもその時の記録というのか坂口拓という人間を撮るみたいなことになって。カラさんは上手く回してくれたんですけど、撮ってる自分としては修羅場にいるような感じなんですよ。だから本当に、戦争を撮っているみたいな感じというか。だからその後は軽い病気だったんですよね、たぶん。
カラサワ:
なんかこう、いろいろ持ってかれたりする作品でしたよね。長年やってきたこととか考え方も変わっちゃったりとか。
──
カラサワさんは拓さんの引退興行で『狂武蔵』上映のために、仮音楽をつけたりと何度か作品をご覧になったわけですよね。その時のお気持ちはどうだったのでしょうか?
カラサワ:
俺は基本的に全部客観的に見てたから。あの時はあの時でお金もなかったし変にCGをつけるぐらいなら、ドキュメンタリーみたいな感じでって。俺の中では舞台を観ている感じ? 映像で舞台を撮ってましたみたいな感じのノリでもういいんじゃないと。刀の音は入ってなかったよね?
──
入っていませんでした。生音でしたね。
カラサワ:
やめたんだよね、入れたんだけど。なんか嘘くなるから。

坂口拓、引退について

──
『狂武蔵』撮影後に拓さんが俳優業から引退されましたが、カラサワさんはその時どのような心境でしたか?
カラサワ:
そうですね…… 役者さんやっててずっと何もしない時期みたいなのが長く続くんだったら“引退”とか“充電”みたいな、説明づけてあげた方がいい場合もあったりするんで。そこら辺は裏方だったら別に休みたければ1年でも2年でも休めばいいけど、拓ちゃんは表の人だったから。それで温かく見守ってたってわけじゃないんだけどね。
──
長野さんはいかがでしたか。
長野:
僕は直接本人から連絡が来ていて、辞めちゃうんだけど必ず戻ってくるからってずっと何度も何度も言ってたから。実はあれから、無意味になんですけど僕はずーっと体を鍛えてるんですよ(笑)。走り込んだりして。いつか拓さんから話が来た時に備えて。来ないかもしれないですよ? でも、いつかっていうね。その時にちゃんと動ける自分でいたいっていう、ただそれだけなんですけどね。なので、拓さんがいなくなるっていう印象はカラさんが言ったように、充電というか、簡単にそういうことなんだなって思いましたよ。
──
実際に拓さんは戦劇者として『RE:BORN』でスクリーンに戻ってきました。拓さんは俳優としては引退したままと話されていましたが、お2人にとって拓さんが戻られたことはそれほど驚くことではなかったと。
長野:
でも、良かったなというか、ちょっとホッとしたところはありましたよ。

(ライター:葦見川和哉)